マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」全曲カラス(マリア)
東芝EMI
発売日 2002-09-11
モノクロの古いロマンティックなイタリア映画を観ているような感動を覚えるディスクだ。シチリア島を舞台にした「カヴァレリア・ルスティカーナ」、南イタリアの道化師一座を舞台にした「道化師」。これらの題材は、要するに愛憎と嫉妬のもつれの果ての田舎の殺人事件であり、下手をすればワイドショーの世界。しかし、ここで起きていることは舞台の上であるにもかかわらず、すべてが真実と感じさせる、現実以上にリアルなドラマであり、いかに聴き手にそれを実感させるかが、この2作の成否を握る。
女の情愛を濃厚に塗りこめたようなカラスのねっとりとした歌は、「カヴァレリア」のサントゥッツァにしても、「道化師」のネッダにしても、恐ろしいほどのリアリティがある。「カヴァレリア」のトゥリッドウ、「道化師」のカニオを歌うディ・ステファノも、一途さたっぷりで、まさに適役。
セラフィンの卓抜な棒のもと、痛切な情緒が全編をおおっているのも聴きもので、鐘の音や、町の人々の歓声など、南イタリアの田園生活の美しさに彩られながら、大人だけの、やりきれなくなるほど悲しい恋の悲劇が展開していく。
それにしても「カヴァレリア」の録音が1953年、「道化師」の録音が1954年。ドニゼッティやベッリーニのベルカント・オペラで、コロラトゥーラまで自在に操る絶頂期でありながらも、同時にこうしたドラマティックなものも歌っていたという事実ひとつとってみても、カラスがいかにバケモノじみた空前絶後の幅広い声の表現力を持っていたかが、わかろうというものだ。(林田直樹)
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